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イエロー・バード

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イエロー・バード / ケヴィン・パワーズ 著 佐々田雅子 訳 / 早川書房

『おまえはきれいな乾いた場所を見つけて、できる限り傷つかないようにしながら嵐が過ぎるのを待てばいいのだ。そして、眠りについて、もう目を覚まさなければいい。あとは野となれ山となれだ。』

どこまでもどこまでも主観的な視点で描かれる。
ひとりの人間が見える視界は狭く、全体なんて見渡せないけれど、それでも全体を感じて、その中でもがく。

この本はイラク戦争に従軍した兵士を主人公にした小説。
僕が住んでいる国が日本だからか、小さな頃から、敗戦国側の小説を通してしか、戦争をみてきませんでした。
でもなんでだろう。日本軍が中国や朝鮮半島や東南アジアに行って、人を殺していく苦しみを描いた作品って、あまりない気がします。僕が知らないだけかな。日本軍が困窮しはじめてからの作品はたくさんある気がするのだけれど。

この本の中には、詩的な表現がたくさん出てくるけれど、きれいな場面なんてない。
けれど、どうしようもなく汚い場面もない。
人間、嫌な記憶は忘れようとするから、記憶に補正がかかっていくものです。
この小説は、主人公の記憶を辿るように進んでいくのだけれど、その記憶の補正のかかり方が、妙にリアルで、補正がかかっている方がかえって嫌なものが迫ってくる。

164ページと186ページが、すごく苦しかったな。
こんなの、なんでやめられないんだろうって、小学生が抱くような疑問を改めて感じました。
社会の流れを作っているのは人間なのに、流れを人間が止めることが、何でできないんだろう。
まるでフェロモンを辿って否応なしに隊列を作ってしまう蟻みたい。

けれど、この本を読んだ後に攻殻機動隊を楽しんで観れてしまうくらいに僕は、
戦争を知らない。
by kobaso | 2015-06-24 22:45 | 読書小話
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