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困ってる人

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困ってる人
大野更紗
ポプラ社

大学の友人が薦めてくれた本を、読みました。
「ビルマ難民を研究していた大学院生女子が、ある日突然、原因不明の難病を発症。自らが『難民』となり、日本社会をサバイバルする羽目になる。想像を絶する過酷な状況を、澄んだ視点と命がけのユーモアをもって描き、エンターテイメントとして結実させた類い稀なエッセイ!」(裏表紙より)
な、本です。

本を読み進めていて最初に思ったことは、「すごくおしゃべりな人だなぁ」ってことと「すごく猪突猛進な人だなぁ」ってことでした。本の向こうになんだかすごくガムシャラな女の人がいて、その人がぶわーーーーっと自身のことを話しかけている気分になりました。でもそれは、面倒くさいというような気分ではなくて、この人の話しをもっと聞きたいと思えるような気分です。話を聞きたいからこっちは頭を動かして、相づちをうちながら、まずはひたすらその人の話を聞いてみようと思えるような気分。そういう気分にさせてくれる人が、僕は好きです。よって、読み始めてすぐに「あ、好きなタイプの人だ」と思いました(なんじゃそりゃ)。

読み進めていると、著者が「すごくおしゃべりな」「すごく猪突猛進な」人というだけではないことが見えてきます。「すごく考える人」でもあります。著者は明らかに、僕達とは置かれている状況が違います(同じ社会に生きているという意味で根本的には同じですが)。けれど、その違いを「違い」としてダンっと見せつけない。この本が単なる闘病記ではないのは、そこにあるんじゃないかと思います。闘病記ならば、辛いこと、不条理なこと、見失いかけている希望、すがりつくしかない何かについて、書き連ねることもできます。けれど著者はそうしません。もちろん闘病をするうえで辛いこともたくさん書かれているけれど、それよりも、なんというか、もっと身近な、人間同士の関係を軸に話が展開していきます。それは同時に、僕達にも共感できる部分、想像できる部分でもあります。「難病の壮絶さ」だけを見せつけられれば、「大変だなぁ」「辛そうだなぁ」程度の感傷論に終始してしまって、読む人は思考を停止してしまうのだろうけれど、著者は「エレベーターでイケメン医師と一緒になって幸せだった」とか、「フランス人とこっそりお菓子を食べた」とか、自身の身に起こった些細なことにたくさん触れます。読み進めているうちに、この「困ってる人」が、そう遠い存在ではない気がしてきます。その分、読者は思考を停止しません。この「困ってる人」の動向を追い、その周りの「困ってる人」にまで想いを馳せ、「どうすればいいのだろう」ということを考えてしまいます。聞く人に「どうすればいいのだろう」と思わせるのはなかなか難しいことではないかと思います。

あと、この著者の、周囲との人間関係のとりかた、周囲の人と問題が起こった時の対処の仕方をみていても、「すごく考える人」なんだなと思いました。決して一方的に人を責めたりはしない。けれど、かといって自分のせいばかりにもしない。それはよほど考えないとできることではありません。辛いことがあったら、人のせいか自分のせいにして、思考停止してしまいたくなるものなのにね。

きっと、著者は肉体的にも書くのが辛かっただろうけれど、精神的にもなかなか骨が折れたのではないかなと思います。施設の子どもたちのこと、医者について、目にしてきたいくつもの不条理について。けれど著者は、自分の思った事を正直に(しかも人をむやみやたらと傷つけないように細心の注意を払いながら!)、文章にしています。なんてこったい。

ものすごい人に出会ったなと、思いました。

追記:この対談も、面白いです。
by kobaso | 2012-09-15 17:04 | 読書小話