<   2014年 07月 ( 3 )   > この月の画像一覧

すみれ

b0180288_2313266.jpg

すみれ/青山七恵/文藝春秋

「でも、本当に苦しくなったとき、その苦しさを自分だけでどうにかできるのかどうかは、そのときになってみなければわからない。そして、何もかも手遅れになって、一人じゃどうしようもなくなって、本当にだれかの手が必要になったとき、そこに一本の手も差し伸べられなかったらどうすればいいのか、十五歳のわたしにはもう、その先を考えることはできなくて、ただそれを怖がることしかできなかった。」

なんとなくちょっと疲れたなと思った時には、やわらかな小説が読みたくなります。
瀬尾まいこや、いしいしんじ、青山七恵が書くようなやわらかな小説。

この話に登場するレミちゃんは、ちょっと「普通」とは違う変わった人で、人との距離感がうまくつかめない。
自分の悲しみや苦しみに目がいくと、他人の善意や優しさを受け取ることができなくなってしまって、自分の中に閉じこもってしまう。差し伸べられた手を拒んでしまうんだけれど、本当はその手を握りたくて仕方がない。でも手を拒み続けていたら、当然差し伸べられる手はなくなって、いつしかもう、どうにもできなくなってしまう。

藍子は中学生とは思えない鋭さでレミちゃんを見抜きます。
レミちゃんの一連の行動から、手が差し伸べられることを当然のことだと思って(しまって)いる「甘え」を見抜き、「小説の中に出てくる悲劇のヒロイン」みたいだと話します。
藍子は、「苦しみは自分の中だけでどうにかしたい」と思い、レミちゃんのようにはなりたくないと思う。
もしかしたら藍子は、藍子自身の中にレミちゃんに似たものを見つけていたのではないかと思います。
レミちゃんは「悲劇のヒロイン」に支配されてしまった。藍子は、そんなレミちゃんを見ていたから、苦しみが重なっても「悲劇のヒロイン」をどうにかうまくやり過ごすことができたのかな。

「苦しみは自分の中だけでどうにかしたい」
それができれば、どれだけ良いことだろう。消化しきれなかった苦しみの切れ端が蓄積していって、積もり積もると「苦しい」自分に陶酔してしまう「悲劇のヒロイン(ヒーロー)」がひょっこり顔をだす。
たぶん誰だって、「悲劇のヒロイン(ヒーロー)」状態に陥ってしまうことがあるのだろうけれど、いつしかそれではいけないことに気付く。いつ・どのタイミングでかはわからないけれど、「苦しみ」に陶酔していてはいけないことに気付く。
藍子は「レミちゃんを見て」そのことに気付いたけれど、自分はいったいどのタイミングで気付いたんだっけ。
もしかしたら、まだしっかりとは気付いてないのかもしれません。

苦しみなんて人それぞれで、ある人にとって苦しいことが、他の人にとっても同じように苦しいこととは限りません。
だから人の苦しみは、想像することはできても、わかることはできない。
だから自分の苦しみを、人に無理やり理解させるように投げつけたりもできない。

「苦しみ」はにっちもさっちもいかない。けれど、にっちもさっちもいかないということをしっかり理解していれば、人から手を差し伸べられた時の有り難さをかみしめながら、素直にその手をつかむことが、できるのかもしれないなと思いました。

レミちゃんは「苦しみ」への向き合い方がへたくそだった。
でも、レミちゃんは多かれ少なかれ藍子の中にもいるし、僕の中にもいるし、たぶん他の人の中にだっている。だから藍子はレミちゃんを救いたいと思ったんじゃないかな。
by kobaso | 2014-07-23 00:07 | 読書小話

ワンダフルライフ

b0180288_23143986.jpg

『人は亡くなると、天国の入口でこういわれます。「あなたの人生の中から大切な思い出をひとつだけ選んで下さい」天国に行くまでの7日間で、死者たちは人生最良の思い出を選択するように迫られ、それを職員が再現して映画に撮影し、最終日には上映会が開かれるのである。そこで死者たちは改めて自分の一生を振り返る。懐かしさにひたり、後悔したり、思い悩んだ末に彼らが選んだ思い出は……』(小説ワンダフルライフ 裏表紙より)

邦画なら是枝監督の作品が好きなのですが、なかでもこの作品は自分の一番好きな映画のひとつです。
先日「朗らかな映画」について話をしていた時にこの映画の話が出て、また観たくなりました。
僕がこのお話を知ったのは小説が最初で、中学生のころに「小説ワンダフルライフ」を読みました。その時は是枝裕和が映画監督だってことすら知らなかった。小説も面白いです。
是枝監督の初期作品には暗くて重いお話が多いのだけれど、この映画は明るい(と思う)。

このお話の設定では、人は死んだらひとつだけ思い出をあの世に持っていくことができて、その思い出をずっと抱きながら眠る。

作中では、登場人物があの世に持っていきたい思い出を色々と語るのだけれど、ほとんどが役者さん自身が選んだ本当の思い出を語ります。だから、その思い出を語る役者さんの顔がとても活き活きとしています。
是枝監督は子どもの可愛らしさを撮る天才だと思うけれど、この作品の場合はおばあちゃんが可愛い。
特に「赤い靴」の思い出を選んだおばあちゃんが本当に可愛い。
ただ、主人公二人の演技がちょっとくさい(ARATAはこの映画が初出演)ところも確かにあるので、それがこの映画の評価が少し低い原因なのかな。

あの世で、ひとつの思い出を抱きながら眠るということについて、
伊勢谷(伊勢谷友介本人)みたいに、「そんなのは嫌」だと感じる人もいれば、山本さんのように「それじゃあ、そこは本当に天国なんですね」と感じる人もいる。僕はどちらかというと、山本さんの感じ方に近いな。そんなに何かを背負いこんでるわけではないけれど。
死後の世界を描いたお話というのはたくさんあるけれど、死んでから「全くの無」になるのは想像ができないし、生まれ変わりたいとも思わないし、ましてやこの世を魂だけが彷徨うなんて僕は嫌です。
ひとつの思い出の中でしか過ごせないなんて恐ろしいと感じる人がいるのもわかるけれど、僕は救われるような気持ちになるな。信じるなら、輪廻転生とかよりもこのお話を信じたい。

不謹慎ながら、今もし死んでしまったとして、自分はどんな思い出を持っていくのか考えてみるんだけれど、

高校時代、自転車に乗りながら田園から太陽が昇る風景を眺めている思い出とか、
冬の朝、誰もいない教室でストーブにあたりながら本を読んでいる思い出とか、
昼頃、実家のデッキで、飼っている柴犬をなでながらウトウトしているときの思い出とか、
夜の誰もいない水族館のイワシ大水槽の前で、寝転びながらぼーっとしているときの思い出とか、

幸せだけれどなんだか少し寂しくなる思い出しか浮かばないので、もう少し生きて、幸せで寂しくもならない思い出をつくらなければなと思ったり。
あと、年老いてから、自分の妻(いるのか?)や友人に、「思い出を一つ持っていくとしたら何を持っていくか」尋ねるのが夢だったりします。

この作品を観ると、思い出がとても美しいものに思えるのだけれど、思い出にとらわれ過ぎると生きることが難しくなったりもするね。この映画を観て救われる気持ちになる一方で、「思い出の中では生きられない」って感じる自分もいます。
by kobaso | 2014-07-06 00:25 | 映画小話

週末

b0180288_23413688.jpg

週末/ベルハルト・シュリンク 松永美穂訳/新潮社クレスト・ブックス

「いつも自由でいたかった。あらゆる束縛を振り払い、自由の光のなかを、自由がもたらす恐ろしさと共に生きてきた。いま自分が飛ぶならば、自分の行いは全て正しかったということになるだろう。」

僕は中学生のころ、読書感想文が大の苦手でした。おもしろい本に出会っても、そのおもしろさを伝えるだけの言葉が、僕にはなかったので。当時の読書感想文は、本のあらすじと意味のない言葉が原稿用紙を埋めているだけの、落書きでした。
今もその状況はあまり変わっていないけれど、本を読んで、自分が伝えたいことを言葉にするということについては、ある程度できるようになったつもりです。それだけの言葉も言い方も知っているつもり。
けれど、たまにどう言っていいのかよくわからない本と出合うことがあります。
おもしろいんだけれど、言葉が浮かばない。
誰かに「読んでみて」と伝えたいんだけれど、どこがどうおもしろいかうまく言葉にできない。
「週末」は、そういう本です。

釈放された赤軍のテロリストと、その友人たちが過ごす週末を題材にしたお話なんだけれど、
赤軍の話なんて、映画で知っているくらいで、僕たちの世代にはあまりピンとこない。
「作中に作者を投影した人物を登場させて、他の登場人物を観察させる」という話の仕組みだって、今までいろんな作家が試みていることで、別にベルハルト・シュリンク特有のレトリックなわけでもない。
時々、無理やりな感じのストーリー展開が繰り広げられたりしてしまう。

それでも、本の中に吸い込まれそうなくらいおもしろい。
「暴力を抑止できるのは暴力だという考えを完全に否定することの困難さ」
「思い出の扱い方」
「自分で自分を縛りつけてしまうことの哀れさと共感」
「思想の伝播」
「個人と社会のいがみあい」
みたいな、色んなテーマが238ページの短い中に収まっているから、あまりの感想の多さに感想が書けなくなっているのかな。できることなら、1章ごとの感想を書きたいくらい。そんな気力はないけれど。

僕はおもしろいと思ったけれど、もしかすると苦手な人も多いかもしれない。
登場人物が多くて、最初の方はだらーっとしてしまうけれど、140ページ目くらいから面白くなってくるので、しばらく辛抱して読んでみてください。
by kobaso | 2014-07-03 00:16 | 読書小話