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アメリカひじき・火垂るの墓

アメリカひじき・火垂るの墓 / 野坂昭如 / 新潮文庫

最高気温は37度を超え、街には浴衣を着た人が歩き、
窓の外からは蝉の声が聞こえます。酔っぱらって朝目覚めたら、枕元に丸々1個の大きなスイカが転がっていました。いつの間にか夏ですね。

学生たちは夏休みの時期です。東京駅で、小さな子どもの手を引くおじいさんやおばあさんの姿がちらほらと見られる時期になりました。
母方の祖父母は埼玉に住んでいて、僕は小学生のころから、夏休みになるたびにひとりで新幹線に乗って、祖父母の家に行っていました。
祖父はよく本を読む人だったので、祖父母の家には本がたくさんありました。ほとんどボロボロだったけれど。
中島敦、井上靖、野坂昭如、井伏鱒二、永井荷風、有島武郎…
思えば、中学高校で変に昔の本を読むようになったのは、祖父の影響があるのかもしれません。
耳の悪かった祖父とは、ろくにしっかりと会話を交わせた記憶がないけれど、
僕の好きそうな本を、何も言わずに枕元に置いてくれたりする、そんな祖父でした。
小学生に養老武司だとかワーズワースを薦めたりする人だったけれど。
頑固で、筆談は頑なに拒否したし、ティッシュペーパーのたたみ方とか、お箸の置き方とかに厳しい人で、正直なところ、ちょっと苦手だななんて思った時期もあるけれど。

先日、夏の気配がする蒸し暑い日に、祖父は亡くなりました。
ここ数年は、大好きなお酒も飲めず、本も読めず、病院に行くたびに紙みたいに痩せていって、
食道癌の術後は声すらろくに出せなかった。
そんな祖父のもとに、祖母はほぼ毎日通って、ただ眠る祖父を見ていた。
祖父が亡くなった時に、祖母は棺桶に入ったその死に顔を見て、「笑ってる。よかったね。笑ってるよ。よかったね。」
と何度も繰り返す。
毎日のように大声で喧嘩していたふたりだったけれど、何十年も一緒に過ごすというのは、
途方もないことなんだなと思いました。
祖父は幸せ者でした。

祖父と、もう少し本の話とか、したかったな。
祖父に読んでほしい本もあったけれど、お勧めすることができないまま、逝ってしまった。
祖父が亡くなった日、祖父にもらったこけしの前にお酒と、祖父に読んでほしい本を置いて、ぼんやりしていました。

何年も前の今頃、僕は祖父の隣で、「アメリカひじき・火垂るの墓」を読んでいました。
次の日、朝起きると、机の上には「きけわだつみのこえ」が置いてありました。
今日のような暑い日で、意味もなくついているテレビからは甲子園の歓声が聞こえていました。
祖父は何も言わず、新聞を広げていました。
新聞読むならテレビ消せばいいのにな、なんて思いながら、
祖父の隣で僕は本を読み始める。そんな、夏の日でした。
by kobaso | 2015-07-26 18:14 | 読書小話