自分の世界は、自分の経験したものでしか作られない。
自分は、自分の知っているものしか想像することができない。 例えば、 私は電車に乗っていつものように大学へ通う。通勤ラッシュの時間とは少しずれていて、空席がちらほらと目につく。私はドアの近くの端の席に腰を下ろした。電車が発信する合図の笛が鳴り、ドアが閉まりそうになったそのとき、小太りのおじさんが電車の中に駆け込んできた。おじさんは、ちょうど私の目の前に立った。きっと、かなり急いだのだろう。ぜぇぜぇと息を切らしている。おじさんは深呼吸をして呼吸を整えた後、おもむろにカバンの中から皿をとりだし、それを頭の上にのせた。すると不思議なことに、皿からごおごおと、ものすごい勢いで水が流れ出した。私はその水の勢いに耐え切れず、目を閉じた。真っ暗な世界の中で、すべての音が、くぐもって聞こえる。水流が収まった。私はゆっくりと目を開けた。完全に水の中にいる。体がふわりと浮いている。他の乗客の体も、ふわりふわりと浮いている。しかし、なぜだろう。おじさんだけが、吊革につかまったまま床に足をつけている。 訝しげに眺めていると、おじさんがちらりと私の方を見上げた。おじさんの鼻の中から、にょろにょろとウミヘビが出てきた。水の中をスルスルと泳ぎ、近づいてくる。逃げなければならない。泳がなければ。泳いで、違う車両に逃げなければ。しかし、身体が動かない。 「蛇に睨まれた蛙」という言葉がある。今までその蛙の気持ちなど考えてみたこともなかったが、きっとこんな気持ちなのだろう。ただただ、蛇を見ることしかできない。ウミヘビが私の足に触れる。螺旋階段のような軌道を描いて私の体に巻きつく。へそのあたりまで巻きつく。胸のあたりまで巻きつく。首、口、鼻…。私は必死に、せめて目だけでも閉じようと試みた。せめて、視界からヘビの姿を消したい。 閉じろ閉じろ閉じろ…。 瞼が重々しく閉じる。反発しあう磁石を、無理やり押し付けてくっつける感覚だ。なんとか目を閉じることができた時、ウミヘビの舌が、私の瞼をなめた。その瞬間、上瞼と下瞼がパチッと音を立てて離れた。 再び開いた私の目に映った光景は、いつもの、通学している電車の風景だった。目の前には、あのおじさんがいる。吊革につかまったおじさんは、こくりこくりとうたた寝をしていた。 この文章を読んであなたの頭に浮かんだ光景は、きっとあなたがどこかで見たことのある光景(実世界ではなくても、映画や何らかの映像でみた光景)のはず。 そして、僕が描こうとした情景と、あなたが描いた情景は違うものだと思う。 電車の光景も、おじさんの姿も、皿の模様も、ウミヘビの色も、きっと違う。 言葉は、発した瞬間に、その言葉を投げかけた人のものではなくて、受け取った人のものになる。 投げかけた人のものと、受け取った人のものは、違う。 見てきたものが、経験してきたものが、知っているものが違うから。 言葉を投げかける人は、自分の投げた言葉が、そのまま相手に伝わっていると思いこんではいけない。 言葉を受け取った人も、自分の受け取った言葉が、投げた人の言葉そのものだと思い込んではいけない。 誤解は生まれるもので、生まれることが自然なこと。 もちろんその誤解が大きすぎるのは問題だけれど、でもある程度の誤差は相手との話の中で認めるべきだと思う。 誤解があるからこそ、会話は楽しいし、同時に苦しい。 だから先生、僕が投げかけた言葉で書かれたレポートは、先生の受け取った言葉でできたレポートとは誤差があるので、その誤差を考慮して、多少内容に不自然さを感じても許してもらえませんか。 とりあえず眠い時にレポート書くと行き詰るしかないから駄目だね。 ってこれ誤差がどうのとかいう問題じゃないね。 もはや自分が何言ってるかわからんくなってきた(笑
by kobaso
| 2011-01-28 01:10
| 退屈小話
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