雪沼とその周辺 堀江敏幸 新潮文庫 鄙びていく町の、静かな話が詰まった短編小説。 それぞれの話は独立してるんだけれど、どこかでちょっとつながっている。 小さな町の中での話だから、つながるのも当然なんだろうな。その小ささが、また好きです。 少しずつ変わっていく町で、それぞれの職業の人が、それぞれの職業に、ぼんやりとした誇りと自信を持って、日常を過ごしている。決して楽しい話ばかりではなく、悲しい話もあるけれど、それでも幸せがふんわりと感じられる本です。「幸せ」?「安心」かな。うーん。「安心」もちょっと違うかも。なんて言えばいいんだろう。 この本の中の「送り火」は、高校時代に模試か何かで、一部分だけ読んだことのある話でした。 やっぱり、どこかで読んだことのある文章と、思いがけず再会する感覚は、すごく好きです。 その箇所に入る前に、「あれ、これどこかで読んだことあるかもな…。」と思いつつ読み進め、その箇所にたどり着いた途端、そのときの状況とか、その時に思ったことがありありと思いだされて。 僕は、あまり記憶力が良くないので、読んだ本の内容はほとんど覚えていません。ただ、おぼろげに雰囲気を覚えているだけです。実際、お気に入りの本ばかりを集めた本棚に並んだ本の背表紙だけを眺めてみても、一冊一冊の話の内容を詳しく説明することができないくらいです。 それでも、一度読んだことのある文章を読むと、記憶がどこかからかぶわーっと湧いてきて、すごく不思議な感覚になります。デジャヴみたいな。その感覚が、好き。 高校時代に読んだ「送り火」の一部は、この話の終わりに向かう1つの伏線でした。 何年かかけて、ひとつの話を読み終えた気分になれて幸せでした。 「送り火」、最後のシーンは人によって色んな捉え方があると思う。 どういう話だと思ったか、誰かに聞きたくてうずうずです。
by kobaso
| 2011-03-30 22:14
| 読書小話
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