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ダンサー・イン・ザ・ダーク

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1年か、それ以上前か忘れたけれど友人に薦められた映画を今日ようやくのこと観ました。

映画の中で何度も何度も主人公の大好きなミュージカルの空想が出てきます。工場で働いている最中。友人に盲目であることがばれた後。人を殺してしまった後…。

「ミュージカルの中では怖いことは何も起きない。」「誰もが全てを受け入れてくれる。」

主人公の本心の笑顔が見れたのは、ミュージカルの中と息子が自転車にのる姿を見た時だけでした。

主人公は、少し頑な過ぎるところがあって、結果的には息子のお金のために人を殺してしまうし、息子のためだと思って、自分の命を延ばす手段を決して選ぼうとしない。暗い現実と、極めて楽観的な空想世界との状況があまりにズレすぎていることもあって、主人公に狂気すら感じてしまうこともある。けれど、主人公が狂人かというと、決してそういうわけではないと思います。
彼女の空想は、そうせざるを得ない彼女なりの正当防衛。独りで闘うための、唯一の武器。
強く、人に迷惑をかけずに生きなければならないという想いが、彼女を苦しくさせていたように思います。

それなら、彼女が空想の中に逃げなければならないほど孤独だったかというと、決してそういうわけではないとも思います。キャシーはよく怒るけれど、暖かな怒りだし、ジェフも幾分空気を読むことができていないけれど、彼女を愛していたし、工場長も彼女の転職先を探そうとしてくれている。けれど、彼女はそれに甘えようとはしない。甘えようとしないというよりも、甘え方がわからなかったのかな。人に優しくされた時、彼女はひどく困ったように笑っていました。

「目が見えないんじゃないのか?」
「見るべきものなどあるのかしら?」

見るべきものは、登場人物全員にそれぞれ山ほどあるはずなんだけれど、それなら何を見るべきだったのか、はっきりと言うことができません。
闇の中でもミュージカルを思い描くことはできるけれど、それだけでは何にもならない。
彼女は息子にとって必要なのは、母親ではなく目だと言う。

空想の世界に浸ってしまう彼女だけれど、彼女自身、空想の中から、闇の中から踊り出たくて仕方なかったのかもしれません。
by kobaso | 2012-08-12 01:04 | 映画小話
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