ここ数カ月読んだ本の中で、いくつか面白かったものの短い感想文を書いていきたいと思います。
・・・・・・・・・・ 「猛スピードで母は」 長嶋有 文集文庫 表題作である「猛スピードで母は」も好きですが、僕は「サイドカーに犬」の方が好きです。 幼少時、母親が出て行った家に、どこか怪しげな父親の仲間や父親の愛人らしき人が集まる、私と弟の環境がその夏は、少し違った。そんな幼少期の回想と、弟との再会という現在が織り混ざる、ちょっと現実離れしたような、でもどこかでありそうなお話。 僕は、父親の愛人、洋子さんが好きです。かっこいい。 「あやまりなさいよ」母は泣きそうだった。 「あやまりません」洋子さんも声が少し震えていた。 「許すつもりのない人にはあやまっても仕方ない」 こんなこと言えちゃう。かっこいい。 洋子さんは、この家で、いったい何がしたかったのだろう。私や弟の親代わりになろうとはせず、「友達」という距離感を保ちながら。「私」の「父」とも微妙な距離を保ちながら。 その夏の日、洋子さんは幸せだったのだろうか。 少なくとも、「私」の父を愛してはいたのかな。ろくでもなさそうな、人なのに。だからかな。 あと、今の弟と昔の父親の姿がどことなく重なって、お話の続きが気になる作品でもあります。 ・・・・・・・・・・ 「ひとり暮らし」 谷川俊太郎 新潮文庫 僕には憧れの老人が何人かいて、その一人が谷川俊太郎さんです。 この話は、詩集ではなくて、谷川さんのエッセイ。 散文だけれど、どことなく詩のような文体が、なんとも心地よいです。 惚けてしまった母と、それに対する父親・谷川さんの交流が、印象的でした。 谷川さんは、色んな人との交流をもちながらも、「ひとり」を大切にしてこられた方なんだなと、思いました。 詩人は常にどこか、孤独なのかな。寂しそうでは、ないけれど。 ・・・・・・・・・・ 「寡黙なる巨人」 多田富雄 集英社文庫 谷川さんに続いて、もう一人憧れの老人(故人ですが)多田富雄さんの、これまたエッセイです。 世界的な免疫学者である多田さんが、脳梗塞に倒れてしまい、半身不随・言語障害を伴いながら生きる闘病記。 自身の不安も、希望も、自尊心も、嫌悪感も、苦しさも、嬉しさも、率直に書かれていて、「生きる」という必死さが、きりきりと伝わってくる本。 唾液を呑み込む、寝返りをうつ、普段意識しないような、些細なことができないということが、どんなに苦しいことか。 作中の、臨死体験の描写が、とても印象的でした。 大野更紗さんの本と同じく、現代の医療福祉制度についても考えさせられる本。 ・・・・・・・・・・ 「とりつくしま」 東直子 ちくま文庫 この世に未練を残したまま亡くなった人が、モノに宿って、この世の様子を見守るというお話。 モノに宿りはするけれど、できることは見守ることだけ。話しかけることは当然できないし、動くこともできない。 そこまでして見る世界は、果たして良いものなのかな。逆に苦しくなるだけではないのかな。 けれど、作中に出てくる登場人物(幽霊?)は皆、様々な形で、幸せそうです。 見守るだけでも幸せな人が、この人たちにはいるんだなあ。その時点で、もうこの人たちは幸せなのかもしれません。 僕には、死んでも見守りたい世界が、人が、この世にいるかなあ。 見つかればいいなと、思います。 ・・・・・・・・・・ 「燃焼のための習作」 堀江敏幸 講談社 堀江さんの本は、好きなのでこのブログの中でも度々紹介してきましたが、この作品も、とても良いです。 ほとんどが、同じ場所で行われる、固定された人物の会話だけで成り立っているのですが、 会話からぼんやりと、いろんな人物、いろんな風景、いろんな心情がぼんやりと浮かび上がってくる。 読んでいて、とても不思議な感覚にひたることができる作品です。 なんでこの人が書く文章は、こんなにも心地が良いのかなぁ。不思議です。 ・・・・・・・・・・ 「勝手にふるえてろ」 綿谷りさ 文集文庫 面白い。面白いけれど、怖いです。 女の人怖い。 ただいま片想い中の男の人にはお勧めできません。 主人公の、好きでもないのに付き合っている(?)男への生理的な描写が恐ろしく怖い。 この本を読んだことのある女の人に聞きたいのですが、こんな風に思うことって、あるんですか。 そして、こんな風に思ってるのに、こんな行動に出ることってあるんですか。 女の人はわかりませぬ。 ・・・・・・・・・・ 「罪悪」 フェルディナント・フォン・シーラッハ 東京創元社 この作品の前の作品である「犯罪」は、友人のブログで紹介されています。 この本を読んでいると、自分とは遠い存在にあるはずの「罪悪」なのに、どこか自分の中にも「罪悪」を見出してしまいそうで、恐ろしくなります。 人間を裁くって、とても難しいね。 裁かれた人も「罪悪」を背負った人であれば、裁く人も「罪悪」を背負わなければならなくなるかもしれない。 「罪悪」はいろんなところに存在するけれど、「罪悪」に見合った「償い」なんてどこにあるんだろう。 この短編集の中では、「子どもたち」「鍵」の二編が好きでした。 ・・・・・・・・・・ お薦め本、募集中です。
by kobaso
| 2013-03-13 22:35
| 読書小話
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