ぼくは落ち着きがない 長嶋有 光文社文庫 『 文学というジャンルがあるとして、それが立派そうにみえるのだとしても、それはやはり外側からの見立てでしかない。くだらない文学は、どこまでも下らない。過激なのも、笑えるのも、無為なものも、エロいのも、いくらもある。 だけど「過激だけど笑えるんだよ」と啓蒙しても仕方ない。その本を手に取った人が文字を目で追って、そう感じたときに初めて、過激さや笑いはこの世に(その人の心の中という「この世」に)生じる。生じるのは、その時「だけ」だ。』 高校の図書部を舞台に繰り広げられる物語。高校生特有の、うまくまとまりきらない、それでも考えがあっちにいったりこっちにいったりするような、軽やかな文体。けれど、軽やかさの中にもちらちらと覗き込むものがあったり、ずっしりしたものがあったりする。 あまりなにも考えていないから楽しい。あまりなにかを考えきることができないから悲しい。苦しい。 「サイドカーに犬」を読んだ時には女の子に。「泣かない女はいない」では女に。そして、この本では高校生に。長嶋有は、いろんな演出をするのがうまい、と思う。 あと、さくっと読める割にはさくっと読めないような内容で、最初は主人公の目で読むけれど、脇役の頼子だったりナス先輩だったりの目でも、読める。最初からちゃんと伏線というか、実は丁寧に書かれていて、感心しました。 主人公が、本の貸し出し記録を見て、10年も前に借りられたものの、それ以降一度もだれにも借りられなかった本を見て物思いにふけるシーンがあります。 少し似た思いをしたことが、僕にもあって、その部分を読んだ時にふと高校生時代に図書館で借りた本を読んでいるときに感じたことを思い出しました。 僕は、本はあまり学校の図書館を使っていなくて(司書の先生がなんか苦手だった)、もっぱら祖父母の家の近くにある図書館から本を借りていました。そこには、白文と書き下し文が載っている漢文の全集みたいなシリーズがあって、当時僕はそれを片っ端から読んでいました。当時は意味を理解できて、それなりに楽しく読んでいたけれど、今はもう読めないだろうな。そんな本なので、ほとんど誰かに読まれた形跡もなくて、紐のしおりが本の真ん中に丁寧に収まっていました。けれど、たまに本のしおりの位置がずれていたり、鉛筆で書き込みがあったりする時があって、それがとても嬉しかったんですよね。「どんな人が読んだんだろう。学校の先生とかかな。受験生かな。自分と同じように、ちょっと背伸びして読んでたのかな。」とか想像するのがすごく楽しかった。 本は一人で読むもので、映画のように大勢で観るものではありません。だから、本を読んでいるときに思い浮かべる光景とかは、ちょっと特別で、自分だけのものみたいに思えたりする。けど、自分だけのものにとどめておくのが惜しくって、同じ本を読んだ人の思い浮かべた光景とか、感想を共有したいとも思う。 だから、過去に同じ本を読んだ人がいるって知ると、嬉しくなったりするのかな。 そういえば、ジブリの「耳をすませば」にも似たようなシーンがあったっけ。 わー、なんだか本の感想と話がずれてしまった。 この本の『(あ、筒井康隆)これを読んだら、次は当然『七瀬ふたたび』だな。小説の「つ」の棚までいくと、やはり返却された『家族八景』の隣の一冊が抜けている。これが実は三部作で、まだ七瀬の活躍を読むことができると知るときの、誰かの高揚を想像する。』ってところも好きです。筒井康隆とか、『風味絶景』とか、『ハリーポッター』とか、宇多田ヒカルとかが細かいところでちょくちょくと登場してくると、それら脇道にまで思いをはせることができて、なんというか、一石二鳥です。 あと、文庫本の解説は堺雅人が書いていて、これもおもしろい。
by kobaso
| 2013-08-17 23:59
| 読書小話
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