今僕が通っている大学には面白い人達がたくさんいて、友人と海を歩けば大抵の生き物の名前はわかってしまう。遠くを飛ぶ海鳥の名前、岩にびっしりとつくフジツボの名前、タイドプールを漂うウミウシの名前、奇妙な形をした海藻の名前。そして、その生物にまつわる話もすごく面白い。 おかげでこの大学に入る前と随分砂浜の歩き方も変わってきて(もっとも、それまで海なんてあまり行かなかったけれど)、ついつい足もとの生き物や生き物の痕跡を探して歩くようになりました。 サークル活動の一環で、ウミガメの死体を探して砂浜を歩いていた時、貝類に詳しい先輩が、ふと足元の貝殻をとって、 「タカラガイ。昔よくコレクションしてたなあ。」 と言って、親指くらいの大きさの貝殻を手渡してくれました。その貝は茶色地に白っぽい斑点模様で、研磨した後の鉱物みたいにテカテカと光っていました。 その光沢と「タカラガイ」という名前が、僕の少年じみた好奇心をかきたてて、それ以来、砂浜を歩く時にはなんとはなしにタカラガイを探しながら歩いています。 タカラガイは「タカラ」というだけあって、古代中国やアフリカでは貨幣として用いられていたようです。経済や文化人類学には全く造詣がないのでわかりませんが、たかが貝殻が貨幣としての信頼を得ていたと思うと奇妙な感じがしてしまいます。ましてや、どういう成り行きで貨幣としての信頼を得たのか、その最初の場面を想像すると不思議な気持ちになります。タカラガイマニアの物好きな王様でもいたのでしょうか。 しかも、中国とは遠く離れたアフリカでも貨幣になっていた。なんだかよくわからないけれどロマンチックです。 海の砂浜には、たくさんのものが打ち上げられています。人間の出したゴミも、生き物がたくさん着いた流れ藻も、貝殻、フジツボ、魚の死骸、ウミガメの死骸、折れたサンゴ、流木… その漂流物の山の上を、まるでジャンク屋のような気分でタカラガイを探して歩くのも、なかなかに楽しいものです。
by kobaso
| 2013-08-25 22:58
| 退屈小話
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