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生命の逆襲

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生命の逆襲 福岡伸一 朝日新聞出版社

「生物と無生物のあいだ」や「動的平衡」などの著書でおなじみの福岡先生の本。
nihoさんのお薦め本です。nihoさんありがとう。
この本は、「遺伝子はダメなあなたを愛してる」(リンクはnihoさんの読書録にとびます)の続編にあたる本です。

この本に書いてある知識自体は、生物好きの子ども時代を過ごしてきた人や、高校の生物・化学が好きだった人ならば知っているであろう内容です。
けれど、「知っている」ことと「常に覚えている」ことは違います。
この本を読んでいると、自分の引き出しの奥にしまわれていたワンダーランドが次々と引き出されていく感じがします(それとも、単に僕が忘れっぽいだけなのか)。
あぁ、こんなこと不思議に思ってたなぁ…とか、あぁ、これ図鑑で調べたなぁ…先生が言ってたなぁ…本で読んだなぁ…この生き物見た時びっくりしたなぁ…とかとか。まるで少年期に引き戻されていくような感覚になる。
昔は、色んなことに興味をもって、色んなことに感動してたのに。しみじみ。

たとえば、シーボルトミミズが出てくる章があるんですが、みなさん、シーボルトミミズって見たことありますか。
あれ見たらひっくり返るよー。
僕は山の中の神社で見つけました。小学生の時に。父親も一緒だったかな。
最初は、ヤマナメクジっていう、超ビッグサイズのナメクジを境内で発見したんです。
手のひらサイズのナメクジ見つけて、父親とワイワイやってるその横を、今度は巨大なにょろにょろがうごめいていたんです。青黒くぬめった、シーボルトミミズが…。
そのときは、ヤマナメクジもシーボルトミミズも知らなかったので、ここはお化け神社かと思いました。
衝撃的でした。
あんなにグロテスク(シーボルトミミズさんごめんなさい)なものを、「これ、なんて生き物ですか」って福岡先生に聞いちゃう一般人のお母様すごい。きっと子どもとふたりで「新種?新種??」なんて言って盛り上がったんだろうなぁ。
そういえば、小さい頃新種を探し出すのってひとつの夢だったりしませんでしたか?僕の周りには未だに新種を探してたり探しだしちゃったりしてる人がいますが…。話がそれてしまった。

「話がそれる」というと、この本を読んでいるとついつい思考が脱線してしまうんですよね(良い意味でです)。
福岡さんの文章はとてもわかりやすくて、面白い。けれど、全てを説明しないところにまた奥深さがあります。

たとえば、先ほどのシーボルトミミズの章の最後には、ブラーミニメクラヘビの絵が挿入されています。
何故、シーボルトミミズの章なのにメクラヘビ??と思いませんか。
たぶん、僕と同じ大学に通っている人なら、「ははん、そういうことか」と思うことでしょう。
メクラヘビ、ヘビといいつつ実は姿かたちはミミズそっくりなんです。
っていうか、その辺にいてもミミズにしか見えない。
僕の友人に変人がいて、航海で八丈島に上陸した際にメクラヘビを探しに行くというのでついていったのですが、友人が嬉々として捕まえるメクラヘビがどうしてもミミズにしか見えませんでした。興味のある人は(ミミズに耐性のある人は)「メクラヘビ」で検索すると画像がたくさん出てきます。あと、その際友人は「サソリモドキ」という生き物も捕まえていて、これもまた奇怪な生き物だったんですが、この話をしていると福岡先生のお話を置いてけぼりにしそうなのでやめておきます。

他にも、「蝶は何故あんな模様をしているのか」について考えている章があります。
これを、「なんで熱帯魚はあんな模様をしているのか」に話をチョットだけすり変えてみると、福岡先生の問いかけている謎は、より一層深まります。
海にすんでいる魚の模様は、「保護色」という説明が成り立つかもしれません。
けれど、淡水にいる熱帯魚はどうでしょう。例えば、ブルーとレッドのラインが特徴的なネオンテトラ。
ネオンテトラはアマゾン川に生息していますが、まさかアマゾン川の植物にあんなキラキラのものがいるとは考えられません。しかも水の色は茶色。
あんなキラキラさせていたら、目立ってしまって仕方ないでしょう。
婚姻色?いや、そんなこともありません。オスもメスもあの色です。
擬態でもない、婚姻色でもない。同種認識のためにあんな派手な色にする必要があるのか…。
なんであんな色で生物淘汰を生き残ってきたのか、不思議で仕方ありません。


この本に書いてある知識を知らない人が読んでも楽しめるし、知っている人が読んでも楽しめるというのは、なかなかすごいなと思います。福岡先生のお題選びと文章力のなせる技でしょうか。
僕は生き物の話を、おもしろそうに話してくれる人のお話を聞くのが、大好きです。
別に専門的な知識に関することじゃなくてもかまわない。その人の生き物に対する姿勢が好きなのかな。
フジツボについてしゃべる人の話を聞けば、その人のフジツボに対する変な愛を感じます。
ネコについてしゃべる人の話を聞けば、その人のネコに対する愛を感じます。
生き物についてしゃべる人は、その生き物に対して愛を抱いていて、
それを面白そうにしゃべる人には、その生き物のバックグラウンドである自然への謙虚さを感じます。
福岡先生の本にしても、日高先生の本にしても、多田先生の本にしても、養老先生の本にしても、生き物に対する「興味」と自然への「謙虚さ」が感じられるんです。だからかな、読んでいて心地良い気分になる。

とてもおもしろい一冊でした。
by kobaso | 2013-10-07 22:36 | 読書小話
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