![]() ぼくはスピーチをするために来たのではありません Yo no vengo a decir un discurso /G・ガルシア=マルケス 木村榮一郎 訳/新潮社 『自分たちを測る物差しをわれわれに当てはめようとする気持ちは理解できます。しかしその時、つい誰もが生きていく上で味わっている苦しみは同じだと思いがちですし、かつてのあなた方がそうであったように、われわれが自己の存在証明を得るのは極めて困難で、血を流すほどの苦労をしなければならないほど厳しいものだということを忘れてしまいます。』 ガルシア=マルケスが死にました。 僕がガルシア=マルケスの本を初めて読んだのは高校生の頃で、その本は「百年の孤独」でした。海外の作家の本はそれまでにもいくつか読んでいましたが、ハリー・ポッター以外で長編の海外作品を読んだのはそれが初めてでした。決して読みやすい文章ではないけれど、ファンタジーというのか、神話的な物語に魅かれてぐいぐいと読み進めていったのを覚えています。新潮社のガルシア=マルケスの本は、その単行本の装丁が好きだったこともあって、以来、「落葉」「悪い時」「族長の秋」「迷宮の将軍」などといった本も集めて読み漁りました。 ガルシア=マルケスが死にました。 けれど、僕にとってはガルシア=マルケスがこの21世紀に「生きていた」ということが不思議に思えてしまいます。 僕にとってのガルシア=マルケスのイメージは、「混沌」「高温多湿」「神話」「独裁者」「老人」「死生」でした。 芥川やカフカのような小説を読むと、自然と自分自身と作者を重ね合わせてしまったりするのだけれど、ガルシア=マルケスの場合には全くそれがありません。社会批判や皮肉も話の中にたくさんこめられているのだけれど、それすら神話みたいな物語に包み込まれてしまう。 独裁者の話も、年老いた老父の話も、そのお話があまりに幻想的というのか、まるで物語が幽霊であるかのような感じがして、ガルシア=マルケスの本を読んでいるといつも自分がどこにいるのかわからなくなってしまう不思議な感覚に襲われます。 つかみどころがないと感じてしまう所以は、ガルシア=マルケスが暮らしていたラテンアメリカという土地に対する、僕自身の知識のなさにあるのかもしれません。 僕はラテンアメリカのことを、恥ずかしながら全くと言っていいほど知りません。だから、「魔術的リアリズム」と言われるガルシア=マルケスの、「魔術的」な部分しか僕は読みとれていないんだろうなと思います。もったいないことだね。 けれど、この状態で彼の本を読むと、まるでおじいさんが奇想天外な昔話を繰り広げてくれているかのような感じもして、僕はその感じが結構好きです。そう、ガルシア=マルケスは僕にとっては「書き手」というよりも「語り手」でした。そしてそれは単なる「語り手」ではなくて、今はもういない人が夢の中で語ってくるような「語り手」であって、だからこそ、ガルシア=マルケスが「生きている(た)」という感覚がどうにも湧かなかった。 この「ぼくはスピーチを~」を読んで初めて、ガルシア=マルケスその人が「生きている(た)」人として、その実像を少しだけではありますがイメージすることができました。ラテンアメリカのことも。 この本は22の講演を文章に書き起したものなので、彼の書く小説とはまた趣が異なります。けれど、例えそれが講演であっても、その言葉の中にガルシア=マルケスの物語を読み取ることができて、「人」としてのガルシア=マルケスとその「文章」を感じ取ることができます。 そしてこの本を読み終えた後に、もうガルシア=マルケスが「本当に生きていない」ことを実感して、少し悲しくなったりしました。ガルシア=マルケスならば幽霊になってでも語り続けていそうだけれど。 ご冥福をお祈りします。 ガルシア=マルケスの書く、思いもつかない創造性に満ちた物語が大好きでした。
by kobaso
| 2014-05-24 01:31
| 読書小話
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