生命と記憶のパラドクス/ 福岡伸一 / 文春文庫 『彼らは異口同音に述べている。飢餓や渇きが人を殺すのではない。その前に孤立と絶望が人を殺すのだと。』 小説であれエッセイであれ、本を読んでいると、時折、本と自分の経験や記憶がリンクすることがあります。 好きなものであったり、具体的な状況であったりもするし、ぼんやりした風景の時もある。 そういうものに出会った時は、まるで趣味の会う友人を見つけたかのように嬉しくなる。 この本には、そんな嬉しくなる瞬間が満載でした。 殺伐とした研究室の風景(もちろん、そこでたち振る舞う様子は僕と福岡さんとで雲泥の差があるけれど)、東京で行われた各展覧会、生物保全への違和感、ファーブル、新田次郎、日高敏隆、多田冨雄、山崎まさよしetc... まるで、福岡さんに「これ観たとき(読んだとき、聞いたとき)、こうだったよねぇこれさあ…」と話しかけられているかのように、 自分自身の嗜好とか記憶とかにリンクすることが多くて、びっくりしました。 何年か前に(もう何年前なんだろう)六本木で開かれた、 佐藤雅彦さんの「"これも自分と認めざるを得ない"展」についても書かれていました。懐かしい。 久しぶりに、「自分が自分であることの証明」やら、「個性」やらについてぐるぐるしました。 僕は仕事が営業職なので、初対面の人と話すことが多く、 そういう時、大抵、「何県出身」だの「何大学出身」だのと、 属性の話をします。 仕事なので、自身のことや相手の込み入ったことを知る必要もないということもあるけれど、人と会ってその人を知ろうとした時に、 僕たちは大抵、属性のベン図をどんどん重ねていって、その人を知ろうとします。 そうして浮かび上がるものは、果たしてその人の「個性」と言えるのか? 「いやいや、個性っていうのはその人の考えかたとか、経験とか、その人自身にフォーカスしたものじゃないと」 って思うかもしれない。けれど、それだって結局のところ属性を重ねていることに他ならないと思うんです。 似た考えをもった人だってたくさんいるし、似た経験をした人だってたくさんいる。 「自分が自分であることの証明」になる「個性」なんて存在しない。 DNAレベルで見たって、変わりはない。 むしろ、生物学的に細かく見ればみるほど、個人はたんぱく質の集合体になって、個性は消失する。 それでも、「自分は自分だ」と言いたくなる気持ちが拭いきれないのも確かです。 それが、「個性を伸ばせ」という僕たちゆとり世代の受けてきた教育に起因するのかはわからないけれど。 ただ少し、あまりに「個性」を重要視しすぎると身動きがとれずに息苦しくなるのも事実です。 時には「代わりはいる」くらいの気持ちで、没個性的に自由になれたら楽だなと思います。 何年か前もわからなかったけれど、今もよくわからない。 個性ってなんだ。 …そして福岡さんの本の話しはどこへ行ってしまったのでしょう。 ごきげんよう。
by kobaso
| 2016-02-07 18:39
| 読書小話
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